もくレンのちょっと難しい話その2
このコーナーでは社長の藤原が「もくレン」のプログラムに折り込まれた理念を語ります。
北欧と日本の教育(その2)デンマークでは
コミュニケーションについて、同じ北欧の国デンマークではどうでしょう?
日本とデンマークで保母の資格を取得し現在デンマーク在住境港市出身のN・Sさんは次のように二ヶ国の教育方法の差を話しておられます。
「日本は黒板に書いたモノを見て覚える授業、一方デンマークは全てが会話で行なわれています。生徒同士が討論を重ねて答えを導く様に授業が進みます。」
正解を覚えるのではなく、工夫して正解を考える授業。多くの知識を得るよりも、得る方法を体得する教育がなされているようです。
授業はコミュニケーション能力を鍛えボキャブラリーを増やし、討論を繰り返す事で自分自身の考えをハッキリさせていく為の場。
ヨーロッパで「一言多いデンマーク人」と言われる国民性は自分の意見をハッキリ伝える教育によって作り出されていると言えるでしょう。
しかしこれは、学問としての教育というよりは、生活力形成の教育が重要視されていると言う事かもしれませんね。
一般に日本人はコミュニケーション能力が弱いとされ、自己表現が苦手だと聞きます。これは、小さい頃からの幼稚園、小学校、中学校、高校と一連の教育環境でコミュニケーション能力を鍛える場が少ないのが原因ではないでしょうか?
また、経済先進国として、近年のテレビゲームやパソコン、携帯電話等の顔を合わさないコミュニケーションツールが増えている事も理由かもしれません。
昔の日本人は、座禅等、自己開示の為の修行を行なったり、俳句や歌などで自分の気持ちを人々に発表したりしていました。また、今程日常が忙しくないので、自己陶酔に浸る時間もあったのかもしれません。
なんにせよ、現代日本人は、能力や知識をアピールできても、自分自身をあまり知らない様に感じます。
私は、今までに多くの方のカウンセリングを行ない、様々な悩み相談を受けましたが、殆どの方は「他人の言葉」に左右されての悩みでした。そして、自分ではどうしたら良いのかが分らない。どうなりたいという方向も無いと言うのです。
そんな方々に私は「あなたが進む道は決まってますよ。ただ、自分で気付いていないだけです。なぜその髪型なのですか?その服の組み合わせは誰かに決められたのですか?あなたは色々な選択ができ何が好きなのかも分っているはずです」と聞きます。
知らず知らずのうちに人間は個性を発揮しています。ただ、それを説明する能力や、自分自身の考えに気付く事が苦手になっているのです。
本来、コミュニケーションとは自分の意志を正しく伝える為の必要手段で,言葉の話せない赤ちゃんが泣く様に、言葉や表情、時にはジェスチャーを交えて意思の疎通を図る方法がコミュケーションですよね。
話すネタは実は自分自身の中に溢れる程あります。それを上手く相手に伝えられれば、自分が嫌な事をされたり、誤解されたりする確立はグンと減るのではないでしょうか?
デンマークは「自己責任の国」と言われていますが、自分の考えを正しく伝える能力を育てているからこそ、他人を理解し認める事が出来のだと思います。
責任を人に転嫁せず、自分の事は自分で行なう。そうする事で満足できたり、自分の能力を理解するのではないでしょうか?
日本では連帯責任という考え方があります。また「責任」という言葉にはリスクを負うという見方があるかもしれなません。責任は本当は受けたくないと考えられている様です。例えば、子供の成績が下がったときの責任を、保護者は学校へ、学校は家庭へ押し付けようとする場が見られます。これでは子供が責任を感じてしまい、弱いところへ負荷をかけてしまいます。日本の政治家が秘書等をクビにして保身するのと同じですね。
何が悪いかを明確にする事なく、結果だけを追う所は「結果を覚える授業」からきているかもしれません。教育環境の再構築こそ今最も取り組まなければならない課題だと思います。
2006年8月「世界一幸せな国はデンマーク」として英国レスター大学の社会心理学分析の専門家、ホワイト教授が調査結果を発表しました。(日本は同調査で90位)又、ミシガン大学社会調査研究機関の政治学者のロナルド・イングルハート氏も2008年6月に同様の結果を発表しています。
“幸せ”とは少し抽象的ですが、なぜデンマーク人が幸せなのでしょうか?確かに、福祉は充実し教育環境も充実しています。更に基本的に医療費は無料。しかし、教職員に限って言えば給料水準はOECD加盟国中最も低く、昇給率は15年勤続しても1.3倍にしかならない。日本が2.5倍にもなるのに比べ所得面で満足度が高い訳ではないのに。
※ OECD(経済協力開発機構)の教育委員会が発表した「魅力ある教職」最終報告書(概要2005)参照
2008年8月、国際非営利調査機関「ワールド・バリューズ・サーベイ」(WVS、本部:スウェーデン・ストックホルム)も国民の幸福度が最も高い国はデンマークだと発表しています。それによると、幸福度を測る最も確かな尺度となるのは、生き方の選択の自由、男女平等の推進、そしてマイノリティー(少数派)に対する寛容さであり、デンマークはそれら全ての項目で1位だったというのです。
教育面でこれらを見ると、日本のような就学義務は無く、約12%の子供は独立(オルタナティブ)学校と呼ばれる国家の教育規制を受けない非営利組織学校に通っており、この独立学校にも公と同じく75%までの公費助成がされ、保護者や子供達に選択の自由が認められています。少数派になる選択であっても同等の公費助成が保証されている為、ここでも選択の基準が教育の思想や中身によって選ばれるようなのです。
間接的な問題に捕われず自らの選択が出来るシステム。しかし、それは同時に自己責任で選択をしなければならないという事です。結果が悪くとも言い訳は出来ない。
デンマーク人が「幸せ」である理由、それは「責任」の捉え方ではないでしょうか?自分自身をコミュニケーションによって知り、自分に相応しい学校を選び、学ぶ目的を果たす事で充実感を得る。彼らは自分の選択に責任を取る事が幸せだと言っているようにも思えます。
※参考文献:杉本均・隼瀬悠里「北欧諸国における教師教育の動向」京都大学大学院教育学研究科紀要第54号2008